About MORIHICO. Vol.06
森彦のある円山と札幌中心部のちょうど中間あたり。電車通りに面した建物に、2号店「アトリエ・モリヒコ」がオープンしたのは2006年。森彦開業から10年が経っていた。
このエリアは古いものと新しいものが混在する、クロスオーバーな雰囲気を漂わせる地のり。雪が降ると、ビルの谷間をささら電車が走り抜ける。南を向いた窓辺でコーヒーを飲みながら、そんな光景を眺めるのもまた楽しい。森彦が「和」なら、アトリエ・モリヒコは「洋」の空間。名前だってカタカナである。
人気者の森彦の後を追う気はさらさらなかったと、市川。「次をやるならまったく違うコンセプトで。ひとつのカラーに縛られたくないからね。学生時代からスタンリー・キューブリック監督が大好き。彼の映画もSFから社会派まで、ぜんぶ違う。インスパイアされているよね、たぶん」。
店の中心にあるビッグテーブルに、季節の植栽をディスプレイするのが空間づくりのテーマ。新鮮なアレンジメントと、使い込まれた椅子や調度品が心地よくなじみ、つい長居をしたくなる。重厚なテーブルは北海道大学理化学研究室の払い下げという代物で、いまでは希少な無垢の一枚板。優に100年以上の歴史はあるといい、表面には無数の傷と薬品の跡とおぼしきシミが残る。
「仕事の跡っていいよね。人の手で磨かれ、使われて美しくなるものに、やっぱり僕は惹かれてしまう。それが和であろうが洋であろうが、表情がバラバラだろうが、どこかでひとつの統一感が生まれてくる。それがMORIHICOという独特の空気をつくっているんだろうね」。
かつてここでコーヒーを焙煎し、オリジナルレシピでコーヒーに合うお菓子を焼いていた。それぞれがプランテーションやマリピエールへと発展し、現在の事業のベースになっている。店名にアトリエを冠しているのは、ものづくりがされていたことの証しなのだ。3店のなかではもっとも交通アクセスがよく、アトリエ・モリヒコを入り口に、森彦とプランテーションを知る人も少なくない。
「この店は峠の茶屋の現代版みたいなもの。街なかで買った本やCDを早く手に取りたくて、家路の途中でちょっと寄り道しちゃうような。コーヒーで一息ついて街の余 韻に浸るとか、そんな過ごし方をしてもらえたらうれしいよね」。