旅人の目線で考える

　円山の森彦本店をはじめ、電車通りのアトリエ・モリヒコ、焙煎工場を備えるプランテーション(現・MORIHICO.ROASTING&COFFEE)、いずれももともとあった建物を改修したものである。いまやリノベーションという響きは耳慣れた感があるが、それ以前から市川は古い建物を探し続けてきた。

「ずいぶん少なくなったけれど、札幌の街にもまだまだ魅力的な建造物がある。それを簡単に取り壊し、なにごともなかったように新しく変えてしまっていいのだろうか。そういう疑問が常にある。たとえば、旅人の目になるとわかりやすい。知らない街を旅するとき、その土地に昔から根づいていた文化や風習にふれたくて、人は非日常を歩くのではないかと。少なくとも、物語のない風景に会うためじゃない。その土地の記憶を今に結びつけることが、都市の成熟にもつながるのだと思う」。

　森彦がMORIHICOというカンパニーへ成長してからも、そのスタンスは変わらない。歴史という時間の重みから抽出する味わいに、MORIHICO独自のスパイスをブレンドして。時の流れをゆるやかに継承しつつ、時代に即した表現を映すリノベーションこそ、MORIHICOの根源なのだ。